2016年5月31日火曜日

小児とAYA世代のがんと、その社会的ケアについて。数は少なくても、ちゃんと注目して解決する大切さ。

病気の治療方法やお薬の量は、体の大きさを基準に大きく小児と成人に分けられています。医療では、一般的には出生~15歳までの、思春期に入るまでの時期の子どもは小児科の範疇です。身体の大きさで薬の量が変わることと、身体が活発に成長して育児期特有の病気や症状もあり、大人とは違った専門性が求められるので、大体15歳を目安に線引をしていると教わりました。調べてみたところ、卒業から10年以上経ったいまでもその基準は変わっていないようです。

身体で仕分けると、たしかに細胞分裂を繰り返し身体が大きくなり、未完成だった身体が完成していくこの時期を境にして、小児と成人を分けるのは合理的です。

しかし、身体と精神は同時進行できっちり成長していくわけではありません。10~20代の思春期~青年期は、身体は大人だけれども精神的にはまだ不安定な発達段階にあります。この時期の病気は精神的に不安定になりやすく、成長発達にも影響が大きく、ここにも特別な配慮が必要だとわかってきました。今は、この世代のことをAYA世代と呼び、大人になる段階の心の支援にも力がいれられています。

AYA世代とは、15~29歳くらいまでの小児でもなく、大人でもない時期を指します。AYAはAdolescent and Young Adult、思春期および若い成人という意味です。

がんの話でAYA世代というと、小児ガンでもなく成人がんでもなく、がん診療の現場では精神的ケアの難しさを感じているけれど、それを素直に話せない世代でもあり、実態がどうも把握できていない世代、という認識があるようです。たしかに、自分たちもその世代の時はぐるぐるとよくわからないことを考えたり、モヤッと常にすっきりしない雲が頭の上を覆っているような、漠然とした不安や言語化できないもどかしさを抱えていたように思います。でも、その実態はやニーズは、通りすぎてしまった私達には上手に拾い上げることができないのではないかと思うのです。

ところで、がんになる人が増えたと言われますが、どのくらいの人数がいつごろがんになっているのか、ご存じですか。現在の日本では、人口の半分が生涯のうちに1回以上がんを経験します。しかし、ほとんどは60歳以上の人生の後半になってから。たとえば、現在0歳の子どもが60歳-80歳の間に癌になる確率は60%ですが、0歳-59歳の間に癌になる確率は20%未満です。

http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
最新がん統計 国立がん研究センター

この表では、何歳くらいで癌になるひとが多いのかを、過去のデータから計算してあります。60歳を超えるとぐっと増えていることがわかります。一方、30歳未満では1%未満の数字が並んでいます。
小児がんもAYA世代のがんも、絶対的に数が少ないのです。




http://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/pediatric_oncology_p01.html

数が少なく、大人のがんとは違う小児~AYA世代に特有のがんもあります。情報も少なく、共有することも困難です。

大人や専門職でも、正しいのか、そうでないことも判断しにくい病気についての情報を、ゼロから探すのは大変です。そんなことを体験した本人たちが、社会的ケアにつながる情報提供プラスアルファのプログラムを立ち上げています。

たとえば、体験者でもある岸田くんが立ち上げた「がんノート」は、インタビューの動画配信サービスを軸に、この動画を企業の社内研修に活用して社会的課題について考えるプログラムを構築しています。
がんノート http://gannote.com/

また、AYA世代の集まる場として、神戸の「チャイルド・ケモ・ハウス」では、現在は安定している/治療終了後のAYA世代の患者と経験者が集まるワークショップを実施しています。
チャイルド・ケモ・ハウス http://kemohouse.jp/


小児~AYA世代の支援については、現在非常に注目されており研究が進んでいるので、あと数年するとこのテーマがもっと一般社会にでてくるようになるかもしれません。小児ガンとは違い、1人の大人だけれど大人ではない、というこの時期に丁寧に関わり、生き抜くAYA世代の若者たちが治療を終えた後の長い人生を、社会の中でしっかり自分らしく生き抜けるような支援が必要です。

また、そのつらい気持ちや難しさを理解することも、なかなか難しい。そして、患者さん本人もどうやって社会に適合していったらいいのか、時に見失います。本当にできないこともありますが、できることもある。でも、治療をしていない人よりは、出来無いことがいくつかある。この状況で、さらに自分の命や未来に不安をいだきながら、不安定な青年期を過ごす。これは、大変な時間です。

どの世代でも病気になる人はいます。亡くなる方もいるし、生きていく人もいる。それはがんに限りません。数が少なくても、それは一定数発生する人たちの困り事です。だから、ちゃんと、社会の中にあるものとして考えて、一緒に生きることを考えたいですね。







2016年5月9日月曜日

病院売店の機能を拡張して気付いたこと。

2年前からある総合病院の売店を運営しています。病院売店は来店する利用者だけでなく、病院に関わるすべての人の役に立てるはず、という仮説のもと、思いついたら担当部署に営業をかけて、小さくトライしながら1つずつ収益化するという地味な作業を繰り返し現在なんとか黒字をキープしています。

もともと、この売店は絶対赤字になると言われていた物件です。大手コンビニさんが手を引く中、それでも、どうしてもやりたかった理由はいくつかあります。

この病院は高齢化と過疎化の進む中山間地域と市街地の境目あたりにあります。
病院の周辺は立地に恵まれて子育て世代の流入が活発で、人口増加をつづけています。住民満足度も高いです。近くには医科大学附属病院のほか、ドクターヘリをもつ病院、中サイズの総合病院にクリニックも多く、住民の医療環境はかなり恵まれています。

一方で、高齢化がすすみ限界集落に近いような地域が山の方にひろがり、そちらから通院してくる患者さんも抱えています。山に住めなくなった高齢者がこの病院近くのエリアにある介護施設に入所し、通院もしています。専用のバスも周辺5キロを巡回しており、慢性疾患をもち通院しながら暮らす高齢者の生活を支えています。

そんな病院の中にある、小さな売店で何ができるのか。

まず、売店を楽しくしています。売店は必要な物が揃っていることが最低条件ですが、それだけではつまらないです。リピート率が高く競合のない店舗だからこそ、自由にチャレンジができるはず。ということで、楽しくしてみました。


看板を楽しくして


スタッフがいろいろ企画





























院内イベントの調達も引き受けます。

なんでもやって、やれることを信頼してもらい、さらに営業をかけていきました。関連の介護施設に、出張売店をやらせて欲しいと提案しても最初は受け入れてもらえませんでしたが、徐々に乗ってきてくれました。

そして、今は2つの関連介護施設で訪問販売をしています。
自分で買い物ができる人が多い施設には、週1回商品をもって伺います。
正味1時間ですが、皆さん代わる代わるやってきて、話をしたりおやつや生活用品を買ってくれます。レクリエーションの一つになっているようです。

デイルームに出張売店がやってきます。楽しいです。















もともと売店にある商品なので、新しい仕入は発生していません。決まった注文は先に連絡をもらい用意していきます。カフェオレ6本、酒まんじゅう6個、ういろう4本、サイダー数本、こんなまとめ買いや、おむつやティッシュなどの生活用品もお届けしています。

施設に出張コンビニはよく聞きますが、それによく似ています。近くに病院売店があれば、スタッフの少しの工夫で訪問販売は成立します。実店舗から商品をもっていくので、新しい投資をしなくてもいいですし、なにより売店の売り上げが上がることが一番のメリットです。

病院の売店には、ケアに使う特殊な介護用品もそろえてあります。自費で用意する、介護生活に必要なものです。口腔ケアスポンジから専門の洗口剤、フィルムドレッシング剤、そのほか取り寄せも可能ですから、かなりの範囲をカバーできます。

ここで大事なことは、課題解決をしながら事業が成立するということです。たしかにネットの宅配サービスでも良いのですが、人がやってきて、話したり、提案したり、答えたりしながら気持よく続いていくサービスを作ることを考えると、病院売店のほうが向いています。売店は単体で事業が成立しているのですから、枝葉の事業へのチャレンジはハードルが低くやりやすいのです。そうして内側に近い場所から医療介護現場を見ていると、まだまだ病院売店の機能は拡張できます。もちろん、収益化しながら、です。

そして現在、私たちは施設に入っていない人に対してもアプローチをしています。
在宅で介護を受けている人も、病院にはやってきます。その人達が、次の外来の時に取りに来るから取り寄せておいて、というお取り寄せに対応しています。特殊なものではありません。大きめのお菓子をたくさん、きんつば5個、おむつ2袋、杖の替えゴム、その他諸々。必要なもので私たちができることは、原則取り寄せておきます。
本も雑誌も、お菓子も同じです。全部その人が必要なものです。

売店をやるまでは、買い物が難しくなっても殆どの物はネットで注文、お取り寄せで対応できることだと思っていました。でも、それが難しくなるのが老いるということでした。このような困り事に現場がちょっと気付いて、一手間かけると、新しい事業展開になります。

事業で実際に動かしてみるとよくわかることがあります。必要なもので値ごろ感があるもの/ことしか売れません。アンケートよりもずっと正直でシンプルです。

介護施設に出張して販売したら、入所者も喜ぶし私たちも利益が上がる。すぐに思いつくことですよね。ですが、実際にやってみてこそ信ぴょう性が上がります。それが本当に役に立っていたら、利用者さんはとても喜んでくれます。施設のスタッフさんが売店に直接やってきて、あれこれ方法を提案してくれます。

病院売店は病院組織から独立していますが、近い立場です。その内側に近い立場だからこそ気づくことがあります。そして、組織がどうしたら動きやすいのかも考えられます。
新規事業は全く新しいところにチャレンジするのもひとつですが、まだまだ周辺には掘り起こせる隠れたニーズが眠っているのではないでしょうか。

課題解決事業というとものすごく難しく聞こえてしまいますが、実は手法はたくさんあり、それはすでに周辺事業を行っている既存事業者がトライしたらやりやすいのです。言うだけよりも、実際に楽しい現場を持続可能な形で作っていたら、営業しやすいです。本気で変えようと思ったら、見える形で現場を作るのも一つの手法です。